先日4月15日、「世界で1枚だけのデジタル写真を提供 ブロックチェーン技術による新たな試み」というニュース記事がありました。
2018年以降、コスプレ業界のごく一部でやたらと取り沙汰されているブロックチェーンにまつわる話題。
コス尊い!!でも先日投稿した記事「コスプレギャラリーサイトやコスプレ専用アプリが失敗する理由」の中でも“上記コスプレ専門サイト以上の問題を抱えるICO(Initial coin offering)”という項で、ブロックチェーンという単語そのものは使っていませんが関連内容に触れております。
そもそも、ブロックチェーン技術ってなに?
ブロックチェーンとは、何なのか?
Wikipediaより引用してみます。
ブロックチェーンとは、分散型台帳技術または分散型ネットワークである。ビットコインの中核技術を原型とするデータベースである。ブロックと呼ばれる順序付けられたレコードの連続的に増加するリストを持つ。各ブロックには、タイムスタンプと前のブロックへのリンクが含まれている。理論上、一度記録すると、ブロック内のデータを遡及的に変更することはできない。ブロックチェーンデータベースは、Peer to Peerネットワークと分散型タイムスタンプサーバーの使用により、自律的に管理される。フィンテックに応用されるケースでは独占や資金洗浄の危険が指摘されることもある。
Wikipedia: ブロックチェーン
恐らく、IT系の知識がない方にとってみれば、抜粋した上記内容でさえ、意味が分からないかと思います。
また、ほとんどのコスプレイヤーやコスプレファンには全く無関係で無意味なテクノロジーです。
ブロックチェーンはビットコインに代表される暗号通貨(暗号資産)に用いられる帳簿技術であり、拡張されたイーサリアムによって暗号通貨以外の帳簿にもなり得ます。
つまり、取引の証明とその正当性を保証してくれる技術です。
本来、ブロックチェーン技術に関しては便利で有用なものです。フィンテック(FinTec:金融技術)分野では2016~2017年辺りに話題になりました。
ですが、なぜこの分野の技術がコスプレ界隈で語られるようになったのか?
コス尊い!!では、コスプレ業界に侵入し始めたこのブロックチェーン技術の応用に少々懐疑的な思いから、掻い摘まんで解説いたします。
なぜ、コスプレ業界にブロックチェーン技術??
冒頭で紹介したニュース記事を読み進めるや否や、おや?、と思いました。
コスプレイヤーという語が見られるのに、コスプレとはほぼ無関係。
どういうことでしょう?

記事内容はなんてことはありませんでした。
『学園天国2020』シリーズという写真集のプレスリリース、それだけです。
単に、ブロックチェーン技術を応用した写真集の発売に過ぎず、本来であれば取り上げるまでもない内容でした。
取り上げるまでもない内容にも関わらず、敢えて取り上げた理由は、先日投稿した記事「コスプレギャラリーサイトやコスプレ専用アプリが失敗する理由」で最もコスプレ業界にとって、迷惑になるであろう内容、と関連するためです。
それがICO(Initial coin offering)やデジタルトークンなど、フィンテック分野にまつわるブロックチェーン技術の応用、その手法をコスプレ業界に持ち込もうとする一部の勢力です。
世界に1枚だけのコスプレ写真と証明する意味とは一体なに?
まず、コスプレ写真の持つ権利について考えてみましょう。
コスプレイヤーは被写体(モデル)です。自撮りであれば、コスプレ写真そのものの著作権もレイヤー本人にあります。
では、第三者、つまり、撮影者(カメラマン)が撮ったコス写真の著作権は誰にあると思いますか?
答えは、撮影者(カメラマン)です。
では、レイヤー本人には、どのような権利があるのでしょうか?
はい、皆さんご存知の通り、肖像権です。
しかし、注意してください。肖像権は法令において明文化された個別の権利ではなく、判例によって成された権利であり、成文化されていません。従って、慣例です。
そして、慣例となっている肖像権には主に二つに集約され、一つは「プライバシー権」、もう一つが「パブリシティ権」です。
共に判例による権利ですから刑法で罰則する規定は存在せず、前者であれば肖像に伴うプライバシーの侵害、後者であれば肖像による顧客訴求に伴う経済価値の侵害が考えられる、といったものです。
コスプレ写真にまつわる肖像権ほかに関する権利については後日、別途記事にいたします。
コスプレ写真、自撮りならざる第三者によって撮影されたコス写真の著作権は、その第三者(撮影者)にある為、法令的には著作権法に該当します。
勘違いしてはいけないのが、コスプレを披露して被写体となったレイヤー本人には著作権は存在しない、という点です。
そして、慣例的な意味合いとしてレイヤー本人が有する肖像権は、撮影許可を与えた時点でプライバシー侵害には該当しないのです。
著作権法は法令化された知的財産権の一つとして成文化されており、肖像権は判例として何等かの損害を被った時に主張できる慣例の為、全く異なるもの、と認識してください。
では、ブロックチェーン技術による“世界で1枚だけのデジタル写真(コスプレ写真)”とは、誰にとっての写真なのか?
それは、著作権を有する撮影者と所有権を有する購入者です。
少なくとも、当該プレスリリース記事にあるブロックチェーン技術によるコス写真の証明とは、著作者と所有者との取引を一本化させ、これを開示・明確化し、改竄し得ない履歴帳簿、というだけです。
被写体(モデル)となったレイヤー本人に、当該写真における権利は存在しません!
コスプレイヤーもコスプレファンも蚊帳の外
当該記事にある写真集とは無関係に、仮にブロックチェーン技術が浸透し、これがコス写真と紐付けされた場合、撮影者並びに媒体のみが有利となります。
媒体とはメディアを指し、例えば、ホームページやアプリなど、ネットを介した公開性のあるデジタルメディアです。
著作権法には、著作隣接権というものがあります。
著作物を公衆に広める役割を果たすものに対して与えられた独占的な財産権を指します。
仮にこれをコスプレ専門サイトや専用アプリの運営元が主張した場合、どうなるのか?
下手をすると、投稿した撮影したカメラマン本人やレイヤー本人のコス写真を、他の媒体で公開することができなくなります。
その権利は、LINEのグループ内や鍵付きSNSアカウント内での遣り取りに留まらず、メールへの添付やオンラインストレージでの遣り取り、クラウドでの共有さえできなくなる可能性があります。
ブロックチェーン技術の応用によるタイムスタンプは不遡及ですから、メディアが当該技術を用いて投稿写真を紐付けた場合、その投稿日時を起点とした著作隣接権を主張した場合、以後、その投稿写真をメディアを介せず自由に公開するのは困難となり、もしかしたら公開する為には金銭を支払う必要が生じる事が考えられます。
自分の写真/自分が写った写真なのに、公開や送付、共有するのにお金がかかる?
そんな馬鹿げた話、ないと思いますか?
いいえ、あり得ます。
実際、音楽業界における楽曲の著作権は、アナログではあるものの上記のように管理されています。
つまり、ブロックチェーン技術は、この著作物管理による使用料管理が容易くなります。なぜなら、ブロックチェーン技術はフィンテック(金融技術)分野で成立したテクノロジーだからです。
以前の投稿記事「コスプレギャラリーサイトやコスプレ専用アプリが失敗する理由」内でも取り上げたICO関連のサービスに着手しているCure WorldCosplayやAMPLE!が正にこれに該当します。
AMPLE!は欧州のICO規制への要求で頓挫しており、目指していたコンセプトはVALU系であったであろう事が予想されますが、Cure WorldCosplayに関しては当記事に合致するものであろうと考えられます。
その理由は、Cure WorldCosplay自体が掲げたコスプレトークン導入で解決可能な5つの課題(決済アカウントを持たないことによる弊害/コンテンツに対する収益配分/信頼・評価の不透明性/顕在化されていない価値/情報の正確性とグローバリゼーション)から見てとれます。
Cure WorldCosplayが掲げた5つの課題そのものが、果たしてコスプレ業界そのものの課題なのかどうか甚だ疑問が残りますが、ブロックチェーン技術を導入した場合、少なくともCure WorldCosplay自体にはメリットがあります。
それが資金調達と著作隣接権によるマネタイズ(収益化)です。
残念ながら、コスプレイヤーもコスプレファンも蚊帳の外、それどころか、そのサービスを利用すると自由度が損なわれる上、購入者に至ってはブロックチェーン技術そのものが持つプライバシーへの懸念がリスクとなる恐れさえあります。
ブロックチェーン技術のメリットはごく一部のレイヤーのみ
ブロックチェーン技術のもたらすメリットを享受できるのは、ごく一部のレイヤー(ごく一部の有名レイヤータレント)とカメラマン(ごく一部のセミプロ以上のカメラマン)だけで、ほとんど大多数のレイヤーやカメラマン、コスプレファンにとっては何一つ意味はありません。
多くは、作品集を販売するカメラマンにとってのみ有益となり、しかし、それ程今より実入りが良くなるとは考えられません。
レイヤーに限っていえば、コスROMなどの作品集を販売しているレイヤーのみメリットになる可能性もありますが、オリジナルコスに限られるでしょう。
原作や元キャラがあるキャラコスの場合、販売手法にもよりますがブロックチェーンにより情報開示が明瞭に追える為、販売者(制作元や発売元)自身が著作権を侵害している可能性を言及され、損害賠償請求における明確な証拠(根拠)となり得ます。
つまり、同人販売しているレイヤーにとっては、自身の著作物を明示させると共に原作への著作料支払いが確定する事を意味します。勿論、販売差し止め対象たり得ます。
実際、冒頭で紹介したプレスリリース記事にある学園天国2020シリーズという作品。
オリジナルコス、実際には、廃校を丸ごと撮影スタジオ化した校内風会場で女子高生風制服コスを着用した海外レイヤー(?)をモデルとした“コンセプト写真集”です。
コスプレといえば、確かにコスプレではあるのですが、キャラコスではないオリジナルコスや特定の職業のアイコンとなる衣装をまとった写真集を、コンセプト写真集と言います。
もっとも分かり易いコンセプト写真集と言えば、ジュニアモデル(ジュニアタレント)の写真集です。
ジュニアモデルはそのタレント区分が示す通り、モデル自身が現役の中高生ですから、多くの場合、架空の学校制服を着用しての撮影となります。
現役学生というコンセプトであるが故、より分かり易いキーアイテムが撮影に使われますから、制服を中心とし、体操服や部活のユニフォーム、スクール水着、そしてティーンエージャーらしい私服(のように見える衣装)で撮影をします。
これらの衣装は、撮影衣装と呼ばれるものであり、写真集に限らず、映画・ドラマ・舞台・ライブステージほか、至る所に存在します。
通常、これらの撮影衣装をコスプレ衣装とは呼びません。ですから、必然的に撮影衣装をまとったモデルの写真集をコスプレ写真集とは呼びません。あくまでも、コンセプトに沿った写真集なのです。
昨今、コスプレ業界の市場規模成長に目をつけた、これら他業界の者達がコンセプト写真集をコスプレ写真集とリネームし、敢えて混同した作品を制作し、販売しています。
ブロックチェーン技術は、それら写真集の中でも、特にデジタル技術の応用が利くデジタル写真やデジタル映像分野で作品をバラ売り、且つ、著作権保持に努める為だけの仕様ですから、レイヤーやコスプレファンには意味がありません。
コスプレという用語に騙されないように!
コスプレだけに限った話ではありませんが、さも、有益そう/便利そう/特になりそう、といったクラスタ外からのアクションには十分注意しましょう。
今回はたまたま、コスプレイヤーという語彙を用いたプレスリリースを見つけ、先日コス尊い!!で取り扱った記事内容と関連したブロックチェーン技術にまつわるものでしたから注意喚起できましたが、各処にはまだまだ深い闇が潜んでおります。
そしてその闇は、レイヤーにもカメラマンにも、その他コスプレファンの周囲にも存在しており、素知らぬ顔で近付いてきます。
メディアでコスプレが取り上げられれば取り上げられるだけ、奇妙な連中が舞い込んできます。
変なものに引っ掛からないよう、皆さんもお気をつけください。
『世界で1枚だけのデジタル写真を提供 ブロックチェーン技術による新たな試み』by ORICON NEWS
引用:https://www.oricon.co.jp/news/2159568/full/
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